パラメディック119救急救命士たちの待機室

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勃起してる…
救急隊は傷病者を安全に確実に適正な医療機関に搬送することを使命としています。傷病者の状態を把握し判断するには通報者や関係者、家族、そしてもちろん傷病者本人からしっかりとした状況聴取を行う必要があります。同時に、確実な観察を行い、バイタルサイン、状況、そして時にはこれまでの経験や感など様々な要素から判断します。



これら必要な要素を集め、正確な判断をするためには当然、それなりの時間がかかります。しかし、緊急事態の現場ではそんな猶予はありません。緊急度の高い傷病者の場合、いかに早く医療機関に搬送し生命に関わる危険な要因を取り除く決定的な治療が開始できるかが生命や予後に大きく影響する場合があるからです。



「確実で正確な判断」と「早期に搬送する」、相反するこの要素を両立する事が緊迫の現場では求められているのです。ではこの矛盾するとも思える要素を両立するにはどうすれば良いのでしょうか?それを実現するひとつの答えとして省略すること、削ることがあります。



消防署に出場指令が鳴り響きました。「救急出場、○町○丁目…F方、男性は自宅庭の脚立から転倒、背部を受傷し動けないもの、通報は息子さん」との指令でした。夏の暑い日ざしが照りつける中、救急車は消防署の車庫を飛び出しました。指令先のFさんのお宅は私たちの受け持ち区域、数分で現場に到着することができました。




【現場到着】

指令先のFさんのお宅の前には通報者である息子さんが案内に出ていました。

隊長「通報して頂いた息子さんですか?」
息子「そうです、お願いします、こっちです」
隊長「患者さんはお父さんでしたね?意識はしっかりしていますか?」
息子「ええ、話はしっかりとしています、ただ動けないみたいで」
隊長「背中を受傷されているとお聞きしているのですが」
息子「ええ、背中から落ちたみたいで身動きがとれないんですよ、痛い訳ではないみたいなんですけど」




【傷病者接触】

傷病者は70代の男性でFさん。今も通報者である息子さんと共に現役で仕事をしており、特に持病もない50代と言っても通用しそうなとても元気な方でした。この日は脚立に登り庭の植木の手入れをしていたところバランスを崩し転落してしまったとの事でした。

息子「親父、救急隊の方に来てもらったぞ」
隊長「こんにちはFさん、救急隊です」
Fさん「ああ…どうも、悪いね、こんな事でお騒がせしてしまって」
隊長「いいえ、とんでもない。この脚立から落ちてしまったのですか?痛めたのは背中ですか?」
Fさん「うん、そうみたいなんだ、痛い訳ではないんだけどな…」

Fさんは少しぼ〜っとしていましたが、このようにとてもしっかりとした受け答えをしており接触時、重症感はありませんでした。落ちてしまったという脚立だって三段ほどしかない小さな物で一番上の高さから落ちたとしても1m弱程度のものです。

隊員「Fさん、ちょっとお身体の様子みせてください、血圧などを測らせてもらいますよ」

私たちの隊ではしっかりと話ができるFさんのような傷病者の場合、隊長が状況を聴取し隊員が判断に必要なバイタルサインを測定して隊長に報告する、そんな形で活動を進めています。必然的に隊長はだいたい傷病者の頭部側、隊員は脇から観察する形になります。

隊員「指に機械をつけさせて下さい、腕に血圧計を巻きますよ…」
隊長「脚立から落ちたのは覚えています?頭は打ってないですか?」
Fさん「覚えてるよ、頭は打っていないと思うんだ」

あれ?おかしいぞ…。Fさんの腕はダランと脱力しており、さらに、・・・・・トクン・・・・・・トクン・・・・・・・脈は相当に遅く弱く触れているのでした。これはひょっとして!?

隊員「Fさん、私が今、腕を触っているの分かりますか?」
Fさん「腕?」
隊員「そうです、ほら、今握手しています、けっこう強く握っていますよ、分かりますか?」
Fさん「いや…」
隊員「それでは足はどうですか?今、太もものところを触っています、分かりますか?」(!!これは…勃起してる…)
Fさん「…分からない」

Fさんは手足を触っても分からないと訴え、四肢が完全に脱力していました。そして陰茎部が勃起していたのでした。夏の暑い日、薄着であったため分かったのです。「隊長、股間を見てください」隊員は目で合図を送りました。

隊長「!!分かった、3次選定しよう!」

急げ、急げ!早く運ばないと!現場の空気が変わります。

隊長「説明やバイタルはオレが取るから、固定資器材を持って来てくれ!病院への連絡もだ、これだけでもいけるか?」

通常、医療機関への受け入れ要請はそれだけの情報を整理してから行われます。受傷に至る経過、バイタルなど、どうしてこの病院なのか、どうしてこの科目なのか、選定に至る理由が必要です。隊長が言う「これだけでもいけるか?」というのはまだ詳細なバイタルも測定していないこれだけの情報で連絡を開始できるか、3次選定を判断した理由を説明できるかということです。

隊員「ええ、充分ですよ、詳細バイタルは後で入れるからって事ですよね?」
隊長「ああ」
隊員「了解!」

隊員は玄関前に停めてある救急車に全身固定に必要な資器材を取りに走りました。機関員はメインストレッチャーを降ろして救急車に施錠しようとしているところでした。

隊員「待って待って!固定資器材持っていきます、重症ですよ!ロードアンドゴー!」
機関員「おいおい、本当かよ」
隊員「状況はオレが入れます、先に固定資器材を」
機関員「ああ、分かった!」

隊員に言われるがまま、たいした説明もなく、状況なんて見えていない機関員は固定資器材を持って現場へと走りました。ほとんどの活動で隊長と隊員が聴取やバイタル測定を行い、それら情報を整理した機関員が医療機関への連絡を行っています。この現場では状況をつかんでいる隊員が搬送連絡に当たりました。機関員に説明する時間がもったいない。

必要な処置だけを!無駄を省け!時間を削れ!急げ!




今回はクエスチョン編とアンサー編に分けての更新です。ズバリ!Fさんの傷病名は何だったでしょうか?かなりヒントとなるキーワードがそろっていますので導かれる答えはあまりないかと思いますが、皆さんの深い考察を楽しみにしています。皆様からのたくさんのコメントをお待ちしています。




 JUGEMテーマ:救急救命士
posted by: パラ吉 | 緊迫の救急現場 | 14:51 | comments(4) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - 勃起してる… | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
現場は迷いの中で
救急隊に求められていることは緊迫の現場であっても冷静沈着に判断し、そして安全に迅速に傷病者を医療機関へと送り届けることです。この判断が時には傷病者の生命、予後に大きく影響することだってあります。



とは言え、救急隊員たちは医師ではありません。危険な病態を推測することはあっても診断することはないのです。病院前救護の担い手としては傷病者の利益を考えれば、判断に迷った時には危険側に立って判断する、結果、オーバートリアージになることはありますが、それは容認されて良いこととされています。



迷ったら危険側に立ってオーバートリアージ、時には医師に助言を仰いで傷病者にとってより良い選択肢を判断すれば良い。このより良い選択肢が何なのか、現場は常には迷いがあるのです。



【出場指令】

「救急出場、○町○丁目…T方、女性は貧血症状、めまい」との指令に私たち救急隊は出場しました。指令先のTさん方は私たちの受け持ち区域でしかも消防署からもかなり近い所でした。現場には5分とかからずに到着できました。



【現場到着】

Tさんのお宅の前では男性が手を振って待っていました。
隊長「Tさんですか?」
夫「どうも、よろしくお願いします、妻が貧血みたいで、ひどいめまいでフラフラしていまして」
隊長「分かりました案内してください」

夫の案内でTさんの部屋に入ると

夫「おい、大丈夫なのか?」
Tさん「大丈夫よ」

傷病者のTさんは40代の女性、玄関に座っており靴を履こうと出掛ける準備をしていました。めまいで動けないと言うことはなさそうです。やれやれこれは自分でも病院に行ける状態だな、タクシー代わりに救急車を使う人が多い中、自ら歩いて救急車に乗り込む方はけっこう多いものです。

隊長「Tさん、担架をお持ちしなくても大丈夫ですか?」
Tさん「いいえ、大丈夫です、そんな担架だなんて、そんなに大げさなものじゃありませんから、すみません」
夫「でもさっきは立つこともできなかったじゃないか」
Tさん「大分、落ち着いたのよ」

現場に先入観は禁物です。タクシー代わりの要請だろうか?そんな思考はTさんの顔色を見て吹っ飛んだのでした。靴を履き顔を上げたTさんの顔色は…

隊長「!!奥さん、ひとまず座ってましょうか、ずいぶんと顔色が悪いですけど」
夫「そうなんですよ、顔色が悪いですよね、先ほどまで立ち上がることも出来なかったんですよ」
Tさん「大丈夫です、本当にそんなに大げさなものじゃありませんから」

そう言うとTさんは立ち上がりスタスタと歩き始めたのでした。

隊員「Tさん、気をつけてくださいよ、倒れたりしたら大変だ、ほら、私が肩を貸しますから」
Tさん「そんなに大げさにしていただかなくても…すみませんね」

隊員が支えてひとまず車内収容し詳細な内容を聴取することとなりました。Tさんの足取りはとてもしっかりしており、隊員の支えなどなくてもしっかりと歩ける状態でした。



【車内収容】

隊長がTさんと夫から救急車の要請に至るまでの概要を聴取します。隊員はTさんのバイタルを測定していました。Tさんは昨晩から体調が悪く、今朝になり立ち上がることもままならないほどの強いめまいを起こすようになったのだそうです。午前中いっぱい横になり休んでいたのですが一向に改善する様子はなく、トイレに行こうと這うようにして移動している妻を見て夫が要請したのでした。

隊長「なるほど、それでは症状は昨晩からあったのですね」
夫「そうなんですよ、でも妻が大丈夫だからと…」
Tさん「明日にかかりつけにかかる予定があるんです、だから明日、先生に相談すればいいやって思って」
隊長「かかりつけとは?」
Tさん「○町のY病院です、この前の検診で子宮筋腫が分かりまして、明日は手術の日取りを決めることになっていたんです」

Tさんは過去、大きな病気を患ったことのない健康な方でした。ただ、最近、町の検診で子宮筋腫が見つかりY病院でオペをする必要があると診断が下っていたのでした。

隊員「…隊長、バイタルなんですけど」
Tさんは意識清明、呼吸状態も正常、ただ、脈拍は140回程度と早く、血圧は収縮期で80mmHg程度でした。顔面も目瞼結膜(アッカンベーした時の瞼の色)も明らかに蒼白でした。

隊長「奥さん、顔色がずいぶんと優れないのですが、不正出血はありますか?」
Tさん「はい、今朝からはかなり量も多くて」
隊長「生理ではありませんか?量はどのくらい?」
Tさん「生理がくる時期なんですがいつもの生理とは様子が違くて…量と言われても…ただ、さっきは便器が真っ赤になるくらい出ました」
隊長「ずっと出続けているのですか?」
Tさん「いいえ、そう言う訳ではないのですが、でも今朝とさっきはまるでおしっこが出るみたいにかなり出血しました、だから私も貧血になったんだろうと、私は生理が重くていつも貧血みたいになるんです」
隊長「Tさんは血圧は低い方ですか?」
Tさん「ええ、低血圧でいつも100もいかないんですよ、今回は少し酷いですけどいつもの症状なのかなって」
隊長「なるほど、だから様子を見ていた訳ですか」
Tさん「ええ」
夫「Y病院に搬送してもらうことはできますか?」
隊長「Y病院ですか…救急車でも30分以上はかかる距離ですし…何よりですね…」


明らかに迷っている隊長、こう言う時に隊員や機関員が背中を押すことが大切です。隊員をチラチラ見る隊長、「なあ?どう思う?」隊長の目はそう言っていました。

隊員「ショックバイタルですよ、3次選定が良いと思います」
「だよな?やっぱり」隊長の迷いも吹っ切れたようです。


ショックとは本当に簡単に解説すると循環異常をきたしている状態を言います。その原因が出血の場合、身体はその状態を補う機構を働かせます。血液が多く失われた場合、血管内の圧力は下がってしまう、つまり血圧が低下してしまいます。これを補うために脈拍数を上げてどうにか身体に酸素と栄養を運搬しようとするのです。しかしこの機構にも限界があり、限界を超えるとあっという間に容態変化してしまいます。出血性ショックによる容態変化は劇的で一気にCPAになってしまうこともあるのです。(出血性ショックにより劇的に容態変化した事例


隊長「お連れする病院なのですが、Y病院ではなく救命センターと呼ばれる医療機関を選定したいのですが良いですか?」
Tさん「Y病院ではダメですか、かかりつけですしY病院が良いのですけど」
隊長「今のあなたの状態なのですが、仰る通り出血が原因の貧血の可能性が高いと思います、しかもその原因も子宮筋腫から来ているのでしょう、Y病院で確定診断されているのですものね?」
Tさん「ええ、そうです」
隊長「ですからオペをすることまで決まっているY病院で治療を受けたら良いと言うのはよく分かるのですがね、私はまず近くの医療機関で早く処置をしてもらわないといけないと思います」
Tさん「でも、大丈夫ですよ、だって私はこんなにしっかりしているじゃないですか」
隊長「確かにお話もしっかりされていますが、相当に出血されていると思うのですよ、血圧や脈拍が相当量出血した時に出る数値なのです、あなたは重症だと判断しているのですよ」
夫「そんなに悪いんですか?こんなにしっかりしているのに?」
Tさん「近くというとどこですか?」
隊長「これから確認しますが、一番近くの○病院の救命救急センターと言うところから選定しようと思います」
Tさん「○病院ですか…でもY病院もかなり大きな病院ですよ」
隊長「いえ…病院の大きさとかではなくてですね…」


さらに迷い所であったのはTさんがかかりつけであるY病院は大学病院クラスの大病院、救命センターは併設していませんが、3次医療機関に準じるほどの設備がある病院です。ここから数分の距離にあれば、あるいは医師に状況を説明して受け入れてもらうと言う選択肢もあるかと思います。しかし、Y病院までは緊急走行でも30分以上はかかるでしょう。隊長の説得が続きましたがTさん夫婦はY病院への搬送を強く希望しました。


隊長「Y病院まではリスクが高すぎるよな?」
隊員「ええ、きっとかなり出血していますよ、もともと低血圧の方と言っても脈拍が高すぎる」
隊長「そうだよな?こんなにタキっている(頻脈)説明が付かないよな?」
隊員「ええ、相当量の出血以外は…」
隊長「ふぅ…分かりました、Tさんもご主人も、Y病院の先生に相談してみましょう。あなたの状態もご存知だし、今の状況を説明して先生にも相談の上で搬送先を決めましょう、もし先生が我々の言うように近くの救命センターに行くよう言われるのならそれに従ってください、どうですか?よろしいですか?」
夫「う〜ん…そうですね、先生がそう言うのならその方が良いですものね」
Tさん「そうですね、分かりました」


私たち救急隊は緊急度も重症度も高いと判断し3次選定を判断していました。しかし、Tさん夫婦はかかりつけY病院への搬送を強く希望していました。Tさん夫婦の言い分も非常によく分かるのですが、とにかくリスクが高すぎます。Y病院に搬送した場合、途中で容態変化してもおかしくない…。隊長はY病院の医師からも説得してもらおうという意図も含めてかかりつけのY病院へと連絡したのでした。


病院連絡
医師「…状況は伺いました、すぐ近くで処置してもらった方が良いよ」
隊員「そうですか、先生、私たちも重症度が高いと判断しています、直近の3次医療機関に搬送しようと思います」
医師「そうですね、それが良いですよ」
隊員「先生、アドバイスありがとうございます、このままお待ち頂けますか、今ご本人にも説明しますから」
医師「私が代わろうか?私が説明した方が早いでしょ?」
隊員「お願いします、先生に話していただければそれが一番です」

電話を代わったのはご主人でした。

夫「はぁそうですか、先生がそう仰るなら、はい、そのようにします、はい…」
Tさん「何ですって?」
夫「いや、救急隊の言う通り、危険な状態だから早く近くに行くようにって…」
Tさん「…そう」
隊長「お二人とも良いですね?近くを選定しますよ」
Tさん「はい、お願いします」


救命救急センター到着
隊長「先生、やはりかなり出血していたのでしょうか?」
医師「う〜ん、そうだね、恐らくかなり、輸血しないといけないかもしれない」
『不正出血 重症』


帰署途上
隊長「Y病院の先生が説得してくれて助かったなぁ」
隊員「でも、大丈夫だろうから来いって言われても困りましたね」
隊長「そうだな、リスクが高すぎるよな?結果的には大丈夫であったとは思うけど」
隊員「結果的には先生も重症の判断、3次選定で良かったですね」
隊長「今回の場合、判断は問題じゃないよ、難しかったのは説得だ」
隊員「ですね、本当、現場って難しいですね」


この状況とバイタルから重症度を判断できない救急隊はいないと思います。テキスト的、プロトコール的にどうすれば良いか判断できても、それを傷病者や家族が理解してくれるかは別問題です。今回のTさんの場合、意識は清明でとてもしっかりした方でした。だからなおさら重症だと言われてもピンと来なかったのでしょう。傷病者や家族の希望に沿うことも救急隊の務めですが、最も優先されることは当然、傷病者の生命です。病院前救護を担う医療従事者の端くれとして、かつ公僕として住民の希望にも応えなくてはならない。救急隊の現場はいつも様々な迷いの中です。


この記事に対するご意見・ご感想をお寄せください。たくさんのコメントをお待ちしています。


JUGEMテーマ:救急救命士
posted by: パラ吉 | 緊迫の救急現場 | 11:51 | comments(4) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - 現場は迷いの中で | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
そんなに緊急ってことはありません
救急車は緊急車両、119番通報は緊急事態の際に活用するSOSの手段です。とは言え、緊急事態とは思えない際に救急車が活用されていると言うことはこのサイトで数々紹介してきた通りです。


適正な利用がなされていないことが救急要請が増大している大きな要因ですが、その要因のひとつに「入院目的」があります。救急車で医療機関にかかれば入院できると思っている方が多いのです。


もちろん、そんな事はなく救急車で医療機関にかかろうが、自身でかかろうが、入院するかどうかは医師が診察し判断することです。


「入院できる病院に連れて行ってくれ」こんな訴えはいつものことです。今回、紹介するお話はさらにその上をいく方のお話です…。




【出場指令】

「救急出場、○町○丁目…T宅、女性は膝の痛み動けないもの」との指令に私たち救急隊は消防署の車庫を飛び出しました。出場途上に状況を確認しようと通報電話番号に連絡を取るも応答はありませんでした。




【現場到着】

指令番地のT宅の前に停車すると家の前には女性が立っており手を挙げていました。
機関員「あそこです、案内人あり!」
隊長「いや…案内人…じゃないんじゃないか?」
機関員「本当だ、小脇に抱えてますね」
女性が抱えているのはバッグ、着替えや洗面用具など入院セットを入れるにはちょうど良さそうなサイズのものです。入院予定や入院希望の方が準備万端で救急要請する場合に持っていることが多いサイズのバッグでした。




【傷病者接触】

隊長「救急隊です、要請頂いたTさんですか?」
Tさん「そうです」
傷病者のTさんは60代の女性でした。指令の内容は膝の痛みで動けないとの事でしたがしっかりと身支度を整え、家の前で救急車の到着を待っていたのでした。
隊長「患者さんはあなたですか?」
Tさん「ええ」
隊長「膝が痛いとお聞きしているのですがご自分で救急車に乗り込むことはできますか?救急車の中で詳しいお話を聞かせていただきたいのですが」
Tさん「ええ、そのくらいなら問題ありません」
隊長「そうですか、ご自宅はご家族がいます?留守になりますか?」
Tさん「今、皆、出掛けています」
隊長「戸締りや火の元は大丈夫ですか?」
Tさん「大丈夫です、全部確認しました」

ふぅ…やれやれ準備万端だ…。どこかに入院するのが目的の方…か。こんな感じの現場はいつものこと、ところがTさんはさらに上手で…




【車内収容】

Tさんは自ら救急車に乗り込みました。隊長がTさんから状況を聴取、隊員はTさんのバイタルサインの測定を始めました。

Tさん「○町にM病院と言うのがあるでしょ?そこに連れていってもらいたいの」
隊長「M病院ですか、TさんはM病院がかかりつけなのですか?」
Tさん「いいえ、かかったことはないのだけど膝の治療にはM病院が良いって聞いたのよ、ずいぶん評判も良いって話だし」
隊長「はぁ、そうですか…ただ初診になるのですよね?」
Tさん「ええ、初診じゃダメなの?」
隊長「いえ…ダメと言うことはありませんが、M病院はここからではかなり距離があるものですから…、Tさん、その膝の痛みはいつからですか?同じ症状でどこかにかかられたことはありませんか?」
Tさん「ありますよ、いくつも」
隊長「いくつも?いくつもと言うと?」
Tさん「K病院でしょ、それからE病院、あとはA病院、O病院…それに…」

Tさんはバッグから数々の医療機関の診察券を取り出し説明しはじめたのでした。Tさんが膝の痛みに苦しんでいたのはもう数年も前からのことになるのだそうです。変形性膝関節症という診断名もついていました。近所にある整形外科のある医療機関はほぼ網羅されていました。どこの病院にかかっても電気治療や痛み止め薬がだされるだけでいっこうに良くはならなかったのだそうです。

Tさん「どこにいっても良くならなかったの、M病院なら手術をしてくれて良くなるって話だからM病院にお願いします」

TさんはM病院への搬送を強く希望し、おまけに手術をしてほしいと訴えたのでした。

隊長「いや、あのですね…Tさん、まず仮にM病院にかかったとしても入院して治療するか、手術をする必要があるのか、そういったことは医師が診察した上で判断することですから、我々にはどのような治療がされるかは分かりません」
Tさん「…そうですか」
隊長「…それから救急車は緊急車両です。救急隊は患者さんの状態を確認させて頂いて、症状に合った科目で対応可能な医療機関を近くから選定するのが原則です。もちろん、かかりつけや同じ症状でかかったことがあるなど考慮する部分はありますが…、ですからTさんの場合、同じ症状でかかられたことのある整形外科の病院が近くにいくつもありますので、いきなりかかったことのないM病院に連絡というのはちょっと…」
Tさん「でも、この近所の病院ではちっとも良くならないのよ」
隊長「はぁ…ただ、M病院なら良くなるなんて事は分かりませんし、それにその痛みがいつもの変形性膝関節炎から来る痛みなのかどうかも我々には判断がつきません。むしろ、同症状でかかったことのある医療機関の方がいつもの変形性膝関節炎からの痛みなのか、違う原因がら来ている痛みなのか、過去の経過が残っている病院の方が良いと思いますよ」
Tさん「これはいつもの痛みです、もう何年もこの膝と付き合っているのよ、間違いないわ」
隊長「そうですか…ただ、万が一、緊急性のあるものが原因の場合もありますから、我々としてはお近くの医療機関に早くお連れしたいのですが…」
Tさん「でも…これはいつもの痛みです、そんなに緊急ってことはありません、この痛みをどうにかしたのよ、M病院にお願いします!」

…Tさんはこの痛みは緊急じゃないと宣言し熱烈にM病院への搬送を希望したのでした。緊急じゃない時に救急車を使っちゃダメ…。

Tさんの希望通りM病院に連絡した場合、「それはまず経過の分かる近くの病院から連絡をとるべきでは?」と指摘されることが目に見えています。それに救急車は公共のサービスです。近くの医療機関に傷病者を搬送し、早期に次の災害に備えることも大切な仕事なのです。原則に目をつぶりM病院から連絡を始める活動はどうなのでしょうか?それは全体の奉仕者としていかがなものか?さらにはTさんにとってだってそれは良いことなのでしょうか?

とは言え、どうにか説得し、かつて同症状でかかったことのあるがいっこうに良くならなかったという近所の医療機関から選定すればどうなるでしょうか?「救急隊は私の希望を無視した」とトラブルに繋がることもあり得ます。…さて、どうしたものか。

トントン…救急車のサイドドアを叩く男性が…

男性「あの〜…」
隊員「はい」
男性「もしかして乗っているのはTではありませんか?もしそうなら私は息子なのですが」
隊員「Tさんですか?」
男性「はい、そうです」

出掛けていた息子が帰宅したのでした。

息子さん「母はどうしたのですか?大丈夫なんでしょうか?」
隊員「膝が痛いと要請されました、お話はしっかりできる状態ですから、こちらからどうぞ」

息子さんが救急車に乗り込みました。

Tさん「いいわよ、私ひとりで行くから、あなたは家にいなさい」
息子さん「何言っているんだよ、救急車を呼ぶほどのことなんだろ、家族が一緒の方が良いじゃないか」
Tさん「そんなに大したことことじゃないわよ」
息子さん「何言っているんだよ、で?どこの病院に向かうのですか?」
隊長「いえ、それがまだ決まっていないのです」
息子さん「そうですか、それならA病院はダメですか?何度もかかったこともあるし、なぁお袋、この前までかかっていたよな?A病院に連れて行ってもらおう」
Tさん「…」
隊長「…いや、そのですね…、お母さんがご近所の医療機関は希望されていなくてですね…、○町のM病院を希望されていまして…」
息子さん「はぁ…○町のM病院、…ですか?何でまたそんな遠いところまで?」

隊長はこれまでの経過、救急隊はまだ選定を始めてもいないことを説明しました。

息子さん「なるほど…分かりました、とりあえず近くで診てもらって判断してもらおう」
Tさん「ダメなのよ、だってちっとも良くならなかったんだもの」
息子さん「救急隊は緊急のものなんだよ、早く診てくれるところに連れて行くのが仕事なんだよ、そんなわがまま言ってちゃダメだろう」
Tさん「…A病院?」
息子さん「そうだよ、A病院でもK病院でも良いよ、まずは近くの病院で判断してもらえば良いじゃないか」
Tさん「だってどうせ痛み止めが出るだけなんだもの…手術するほどのものではないって…」
息子さん「そんなの診てもらわないと分からないじゃないか」
Tさん「分かるわよ!いつもそうなんだから、手術してもらわないともう良くなんてならないのよ」
隊長「いや…ですからTさん、M病院なら手術をするなんてことはありませんよ」
息子さん「なんだってそんなにM病院が良いんだよ?」
Tさん「だって、ほら、○さんところの奥さんがM病院で手術してもらったらすっかり良くなったって…」
息子さん「何言っているんだよ!そんなことで救急隊の方に迷惑かけるんじゃないよ、どこかの奥さんと同じじゃないだろ、何言っているんだ!」
Tさん「…」
息子さん「もうけっこうです、申し訳ないですが近くから連絡して頂けますか?」
隊長「はぁ…よろしいですか?Tさんもそれで良いですか?」
Tさん「いいえ…もうけっこうです、近所の病院にかかっても仕方がありませんから、自分でM病院に行きます」
隊長「はぁ、そうですか…ただ、先ほどから申しあげている通り、その痛みがいつもの変形性膝関節炎からのものなのかどうか我々には判断がつきませんから大丈夫かどうかは分かりませんよ」
Tさん「大丈夫です、自分で行きますから」
息子さん「じゃあオレが車で連れて行くよ、そうしよう」
Tさん「いいわよ、タクシーでも呼んで自分で行くわよ!」
隊長「そうですか…」

『不搬送、傷病者搬送を辞退』

ふて腐れた様子のTさんは救急車を降りて家に入っていきました。

息子さん「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした、本人があのように言っていますので大丈夫です」
隊長「いいえ、とんでもありません、それではこれで私たちは失礼します。お母さんなのですが、膝が痛いのは事実でしょうから、どちらかにはかかられた方が良いと思います、それはお願いします」
息子さん「ええ…それは私も知っているんですよ、もうあちこちにかかっては良くならない良くならないって…いい加減にしろって言っていたものですから…本当に申し訳ありませんでした」
隊長「いいえ、失礼します」



【帰署途上】

機関員「また新しい病院に連れて行けなんて言ったら怒られるから息子の留守にオレたちを呼んだってことですかね?」
隊長「多分そうなんだろうな…」
機関員「やれやれ…受診するのは自由だけど救急車でってのがなぁ…」
隊長「入院希望かと思ったらあの奥さんはもっと上手だったな」
隊員「ええ、まさか手術希望とはね…救急車で行けば入院になって手術してもらえるって思ったんじゃないですか?緊急車両を呼んでおいて緊急じゃありません、…ですからねぇ…」
機関員「うちの奥さんにも似たようなところがあるんだけどさ、何だってあんなに近所の奥さん仲間の情報を信頼するのかね?」
隊長「ああ、うちもそうだ、テレビ番組の司会者が良いって言ったらいつも翌日に買ってくるよ、この前なんてスーパーで売り切れてるの、同じような人がいっぱいいるってことだよな」
隊員「専門の整形外科を巡ってどの先生もみんな大丈夫って言っているのが信じられなくて、近所の奥さんの言うことは真に受けるのだから意味不明ですね」
機関員「大丈夫じゃないって言われないとダメなんじゃないのか?」



この記事に対するみなさまからのご意見を募集しています。たくさんのコメントをお待ちしています。


 JUGEMテーマ:救急救命士
posted by: パラ吉 | 救急救命士たちのため息現場 | 16:11 | comments(7) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - そんなに緊急ってことはありません | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
震災を経て
お久しぶりです。パラメディック119管理人のパラ吉です。半年近くもの間、当サイト、ブログの更新を怠っていました。当サイトをご覧頂いている方には申し訳ありませんでした。

様々な要因がありましたが3月11日に起こった大震災がその大きな要因です。この大震災で亡くなられた方、またそのご家族、今も避難所生活をされている方々、たくさんの苦しんでいる方々のご冥福を陰ながらお祈りいたします。

この震災で私も改めて考えさせられるものがたくさんありました。私の仲間も被災地に派遣され、凄惨な現場を目の当たりにして帰ってきました。故郷が東北にあり、家族と連絡が取れないままに働いている者もいました。消防官の宿命であると思いつつも辛い思い、悔しい思いがありました。

現場で活動する中で、改めて果たしてこれで良いのだろうか?考えさせられること、疑問に感じることがたくさんたくさんありました。

現場でこんな事が主訴って方たちがいます。「花粉症が辛くて息ぐるしいんです」「これから入院する予定になっていますから、雨も降っているし…」「ひとりでいると不安なんです」…どれもご本人には辛いSOSなのかもしれませんが、東北で家が流され、家族が流され、SOSも叫べない人がたくさんいるって言うのに…。

一方で、「被災地ではもっと苦しんでいる人がいるって言うのにこんなことで119してしまってすみません」と言う方が多かったのも印象的でした。そんな方に限って「いえいえ…これは救急車を呼んでいただかないといけないと思いますよ」我慢なんてしないでもっと早く呼んでくれればよかったのに…。

当サイトでは救急車を適性に使ってほしいと訴え続けていますが、この震災を経て改めて感じたのは、救急車を適正に利用することは何よりみんなのため、住民全体の利益のために必要であると言うことです。今のままこの町に震災が起こったらどうなるのだろう…?

改めてここをご覧のみなさんにお願いしたいと思います。救急車は住民の共有財産です。必要な人が必要な時にのみ使わないと本当に必要な方のところに駆けつけられなくなってしまいます。

また、少しずつ、現場の経験を元としたお話を紹介させてもらい、そんな事をみなさんに考えてもらえたらと思います。


JUGEMテーマ:救急救命士
posted by: パラ吉 | おしらせ | 11:51 | comments(1) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - 震災を経て | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
続・何となく何かヤバイ…
 この記事をお読みになる前に何となく何かヤバイ…をご覧下さい。続編となります。


【車内収容】


Tさんを車内収容し受け入れ先の選定を始めました。

隊長「さて、どうしたものかな?」
隊員「肝硬変は間違いないとして…血圧は低いですがショックと言うほどではないし、3次選定するにはちょっと…」
隊長「そうだな、オレもそう思うんだ、緊急度と言う点でどうだろう?」
隊員「相談してみますか?」
隊長「そうだな、迷った時には助言だな」

私たち救急隊が判断に迷っていたのは緊急度に関してでした。肝硬変がかなり進行している、重症度は高いと思われます。ただ、これは慢性的な病気で時間をかけて徐々に進行してきたと考えられます。果たしてあと数分後、数十分後に生命に関わるような状態に容態が変わる可能性があるのだろうか?私たちの町のプロトコールでは進行した肝硬変の症状は3次選定してもかまわない要件のひとつになっています。しかし今のTさんは3次高度救命救急センターに搬送し緊急に処置をしなければならないような状態なのだろうか?傷病者にとってどのような医療機関で治療を受ける事が利益なのだろうか?私たちは医師に助言を求めることにしました。




【助言要請】


助言要請とは救急救命士制度の根幹、メディカルコントロールの柱の一つとなっているものです。簡単に言うと、救急現場ではプロトコールでは想定できない事象などが起こった時、無線や携帯電話を活用してオンラインで医師にアドバイス、助言を求めることを言います。救急救命士は「診療の補助」を行う立場にあるので、医師の指示を受けることは活動の医学的な根拠を求めることにもなります。現場で判断に迷った時に、救急救命士は医療従事者の上位者、高度な知識・技術を持つ医師に判断を委ねること、アドバイスを求めることができるのです。

隊員「…と言う状況なのです。先生、3次選定するほどの緊急度はあるでしょうか?搬送先医療機関はどうすべきでしょうか?」
MC医師「う〜ん…その内容だと肝硬変は間違いなさそうだね?」
隊員「はい、症状からみても間違いないと思います」
MC医師「症状が出てからもう数ヶ月経っているのでしょ?ひとまず近くの消化器で対応可能な医療機関から選定してください」
隊員「そうですか、分かりました、助言ありがとうございました」

私たちは医師の助言を求め直近の医療機関を選定しました。受け入れ先はすぐに決まりました。




【医療機関到着】


病院のストレッチャーに写ったTさんはぐったりとしていましたが、容態が変わることもありませんでした。

医師「それでは引き継ぎをお願いします」
隊長「はい、同乗してきているご主人からの要請で…」

隊長がこれまでの状況、こちらに搬送するに至る概要などを医師に説明し引き継ぎます。

Tさん「どうもありがとうございました、本当に助かりました」
隊員「いいえ、Tさん、これからしっかりとした治療を受けないといけませんよ」
Tさん「はい…そうですね…」
医師「こんにちはTさん、今、救急隊の方から話は聞かせてもらったのですがね、もうひと月以上も前からなんですって?体調が悪かったのは?」
Tさん「はい、そうです…」
医師「顔色も優れませんね、お腹を見せてもらいますよ」
Tさん「はい…」
医師「これは…」

Tさんの診察を始めて絶句する医師

医師「ふぅ…サインしましょうか」
隊長「はい、お願いします」

『肝硬変 中等症』

医師「救急隊の方から説明されましたか?これは肝硬変で間違いないと思いますよ…」
Tさん「はぁ、そうですか…」
医師「何だってこんなになるまで病院に来なかったのですか?」
Tさん「…」
Mさん「いえ…その…実は…」




【帰署途上】


機関員「それにしてもあのシミ、よく分かったな?」
隊員「ほら、いつだったか下血している外国人を扱った事案があったじゃないですか?あの時に嫌と言うほどに嗅いだ臭いに似ていたので何となく何かヤバイって」
機関員「そんな現場あったっけ?」
隊員「ほらあったじゃないですか、あれ?一緒に行きませんでしたっけ?」
隊長「やるね〜、経験が生かされたじゃないか」
機関員「それにしても何だってあんなに悪くなるまで放っておいたものかね?」
隊長「確かにもっと早く病院にかからなくちゃならないよな…でも何と言うか…いろんな事情があるものなんだな…」
隊員「オレだってさっきまで何でこんな風になるまでって思っていましたよ、でも何も言えませんね…」
機関員「事情って?」

診察室でMさんはどうしてこれまで病院にかかれなかったのかを語りだしたのでした。傷病者のTさんには実は本当の夫がいるとのことで、その夫からの暴力から逃れるために隠れるようにMさんと暮らしているとの事でした。暴力を振るう夫から逃れ、Mさんとの生活が始まった頃から、お酒が欠かせない生活になっていったとの事でした。次第に体調を崩し、酒の量も体つきも異常であるのは明らかでした。しかし、病院にかかり保険を使えば夫に居所が分かってしまうかもしれない、家に戻ることになればまた暴力に苦しむことになる、保険を使わずに治療を受けるような経済力もない、だから医療機関にかかることはできなかったとの事でした。この日の救急要請は切羽詰ったふたりの本当の最後の最後の手段だったのでした。

どんよりと暗い救急車内

機関員「そんな事情があった訳か…」
隊長「本当、オレたちの出かける現場って社会問題のるつぼだよな」
機関員「他にもどんな事情があるかは知らないけど、あの二人は本当の夫婦ではなかったんだな」
隊員「きっとオレたちにはとても分からない複雑な問題があるんじゃないですか?」
隊長「ドメスティックバイオレンスの果てにあの状況があった訳だな…」



救急隊の現場には私たちの想像を絶するような様々な事案がります。そこには人々の様々な生活や事情が複雑に絡んでいたりします。テキストに書いてあることだけでは現場が回らない大きな要因です。こんな様々な現場で頭を悩ませ、解決策を探し、制度と言う枠に配慮し、傷病者にとっての利益を考え、そしていつも疑問を感じて、そんな事の繰り返しが経験となり、きっと何となくの第六感のようなものを磨くのだと思います。



この記事に対するみなさまからのご意見・ご感想をお待ちしています。今回のこの事案では医師の助言を活用し選定しました。みなさんならどのように判断しどのように活動したでしょうか?みなさまからのたくさんのコメントをお待ちしています。
posted by: パラ吉 | 仰天救急現場報告 | 21:28 | comments(3) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - 続・何となく何かヤバイ… | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
何となく、何かヤバイ…
ここ数年、私の消防署にも大学や専門学校で救急救命士資格を取って入ってくるいわゆる免持ち救命士の後輩が増えてきました。専門学校では2年、大学では4年もの時間をかけて勉強してくるのです。みんな知識があってうかうかしていられないなと良い刺激を貰っています。ただ、知識のある後輩にもこれだけはまだまだ負けないなと感じることは何といっても経験です。消防官になってから様々な過程を経て救急救命士となった者としては、現場でそれはそれはたいへんな苦労をしてきたのです。知識だけでは回らないのが現場、経験だけでも回らないのもまた現場です。現場では経験を積んでいかないと身に付かない「第六感」のようなものがあって、この部分に助けられることがけっこうあるのです。




昼間の消防署に出場指令が鳴り響きました。「救急出場、○町○丁目M方急病人、女性は意識があるも動けないもの、通報は夫から」との指令に私たち救急隊は消防署を飛び出しました。良い天気の昼間、日差しの眩しい町を救急車が駆け抜けます。指令先のMさんのお宅は受け持ち区域、現場到着まで5分程度の距離でした。到着まで傷病者の情報を執ろうと通報電話番号に電話をかけましたが応答はありませんでした。




【現場到着】


指令先はマンションの一室でした。呼び鈴を鳴らし救急隊長がドアを開けます。

隊長「Mさん、こんにちは、救急隊です、失礼します」

この声に奥から50歳くらいの男性が出てきました。この人が通報者である旦那さんでしょう。

Mさん「お願いします、こっちにいます」
隊長「分かりました、失礼します」

隊長に続こうと部屋の玄関に入ると…あれ?何だ?何かおかしい…?何か違和感を感じるのです。臭いが…臭いって訳じゃないけど…何だ?何となく、何かヤバイ…おや?あれは?

隊員「隊長、何か臭いませんか?あのシミ、気を付けた方が良いかも…
隊長「どれ?」
隊員「ほら、あのシミ、ひょっとすると…」
隊長「ああ…分かった、踏まないように気をつけよう」
隊員・機関員「了解」




【傷病者接触】


Mさんの案内で奥の部屋に進むと布団に女性が横になっていました。彼女が傷病者のTさん、やはり50代の女性でした。パっと見て明らかに顔色が相当に悪い方でした。Mさんは夫との事でしたが二人は別の姓、ここで一緒に暮らしているとの事でした。

隊長「こんにちは、どうされましたか?」
Mさん「ずいぶんと前から体調が悪かったのですが今日の昼頃からはトイレにも行けなくなってしまったので…」

Tさんの顔色はとても悪く土気色、体調不良で歩くこともできない状態とのことでしたが意識は清明で話しはしっかりとできる状態でした。隊長が傷病者とMさんから情報聴取を進めます。その間に隊員はバイタル測定を実施していました。

隊長「…そうですか、それではもうひと月も前から体調不良を感じていたのですね?」
Tさん「はい、先月くらいから身体がだるくてだるくて…」
隊長「どちらか病院にはかかられなかったのですか?」
Tさん「はい…それが…病院に行かなくてはと思ってはいたのですが…」
隊長「何かご病気はありませんか?現在治療中のものなどはありませんか?」
Tさん「はい、特に持病はありません、かかっている病院もありません」
隊長「そうですか、分かりました」

Tさんはこれといった病気はないと言います、現病・既往歴なし…か。もちろんそんな訳ありません、今のこの状態はただ事じゃない、ただ病院に行っていないというだけでしょう。Tさんの呼吸状態は正常、脈拍は100回/分程度、SPO2は97〜98%程度、血圧は収縮期で90mmHg程度でした。顔色は非常に悪く目瞼結膜は蒼白、循環状態が悪いのは明らかでした。ショックになる手前だろうか?それにこの体型は…

隊長「Tさん、ちょっとお腹を見せていただいてよろしいですか?」
Tさん「はい」
隊員「ちょっと服をめくらせていただきます」

まるで妊婦のように膨れ上がったお腹、細いTさんのお腹は不自然に盛り上がっているのでした。これは…やっぱり…メズサの頭…。

隊長「このお腹はいつからですか?」
Mさん「先月くらいから気になり始めていました…」
Tさん「少しずつ膨れていつの間にかこんな風に…」

このお腹にはきっとかなりの水が溜まっているのでしょう。この土気色の顔色は黄疸、腹壁静脈がこんなにも怒張している。これは明らかに肝硬変の症状です。しかもかなり進行してしまっていると思われます。

隊長「Tさんはお酒はかなり飲まれる方ですか?」
Tさん「はい…」
Mさん「実は…ここ数ヶ月、食事もほとんどしないで酒ばかりでした、それがここ2日ほど前からは酒も飲めなくなってしまって…」
隊長「どのくらい召し上がっていましたか?」
Mさん「1日に一升くらい…」
Tさん「…」
隊長「一升!?それをずっとですか?」
Tさん「はい…」
隊長「…もう一度聞かせていただきますけど、ご病気は何もありませんか?肝硬変やアルコール依存症などと指摘されたことなどありませんか?」
Tさん「はい…でも、私も何かおかしいと思っていました…」
Mさん「お酒の量はさすがに異常だったので何かの病気だとは思っていたのですが…」
隊長「便はちゃんと出ていますか?」
Tさん「それが…」
隊長「気にはなっていませんか?例えばずいぶんと黒かったとか?」
Tさん「はい、気になっていました、先週くらいからずっと真っ黒で…」
隊長「血を吐いたりはしていませんか?」
Tさん「それはありません、ただ…」
Mさん「実は、さっき私が支えてトイレに行こうとした際に漏れてしまいまして…それがあまりにおかしいから救急車を呼んだのです」
隊員「Mさん、ひょっとして玄関にあったあのシミって?」
Mさん「はい、漏れてしまった時に汚れてしまったものです」

やっぱり!あのシミ、そして何となく臭ったあの臭いはそういう事だったのか。大分、話が繋がってきました。

隊長「どんな便でした?海苔の佃煮のような、コールタールのような真っ黒い便ではありませんでしたか?」
Mさん「そうです、まさにそんな感じのものでした」
隊長「ずいぶんとたくさん出ました?」
Mさん「はい、それはもうたくさん」
隊長「それは全部片付けてしまいましたか?」
Mさん「カーペットについたものは拭き取ったのですがトイレの中でも床に落ちてしまって、それはまだ片付けられていません」
隊長「Tさん、便なんて見られたくないだろうけど見せていただきますよ、とても大事なことなのです」
Tさん「はい」
隊長「確認して」
隊員「ええ、見てきます」

隊員はトイレの様子を確認に向かいました。トイレの床にはまさにコールタール、しかもかなりの量の便が付着していました。間違いありません、これはタール便です。Tさんは下血が続いている状態ということです。救急隊はTさんをひとまず車内に収容し受け入れ先医療機関を選定することにしました。




今回の更新はここまでです。今回はクエスチョン編とアンサー編と言うことではなく、みなさんのご意見を伺うため前編、後編に分けての更新です。このような方を扱った場合、みなさんならどのような判断をしてどのような医療機関に搬送すべきと考えますか?もちろん私たちの隊が選択した方法が正解ということではありません、様々な答えがあるはずです。現役の救急隊、救急救命士のみなさんからのご意見・ご感想・判断内容をいただきたいと思います。今回も勉強させていただきます、たくさんのコメントをお待ちしています。




 JUGEMテーマ:救急救命士



posted by: パラ吉 | 仰天救急現場報告 | 12:47 | comments(8) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - 何となく、何かヤバイ… | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
裸足の救急隊員
 前回の更新ではお酒を飲むと攻撃的になるタイプの酔っ払いのについてをオメエぶっ殺すぞ!というお話を紹介させて頂きました。お酒を飲むと攻撃的なる方には救急隊に限らす周りの人はみな困らされていることでしょう。今日紹介する酔っ払いは完全に寝込んでしまうタイプです。こちらをご覧のみなさんの中にも酔うとまったく起きなくなる友人や知人の一人やふたりがいるのではないでしょうか?深く眠り込んで起きないだけならまだ良いのですが…。

 出場指令
「救急出場、○町○町名…路上、飲酒した男性は嘔吐後、座りこみ動けないもの、通報は友人のGさん」との指令に救急隊は出場しました。

 現場到着
指令場所は居酒屋のビルの前の歩道、数名の男女が大きく手を振っていました。その先には電柱にもたれかかるように座っている男性の姿が見えました。
隊長「おっと…こりゃみんな酔っ払っているぞ、言動が荒いようなのがいたらすぐに車内収容してこの場を離れよう」
機関員「そうですね、了解」

 傷病者接触
隊長「救急隊です、ご通報頂いたGさんはどちらですか?」
Gさん「私がGです、お願いします」
隊長「患者さんはあちらの方ですか?」
傷病者は30代前半の男性でKさん、案内に出ていたのは会社の同僚たちでした。長期に渡る仕事がひと段落したからと会社の仲間10人ほどで打ち上げをしていたとのことでした。飲み始めて2時間ほどでKさんは飲みつぶれてしまい寝込んでしまったとの事でした。1次会は終わり、これから次の店に行くぞとKさんを起こそうとするもまったく起きず、とりあえず同僚の男性たちが担ぎ出すように店を出たのだそうです。すると店の前の路上で突然の嘔吐(いわゆる寝ゲロです)、それでもまったく起きないため心配になり要請したとのことでした。
隊員「Kさん、こんばんは、Kさん、救急隊ですよ、大丈夫ですか?」
隊員が肩を叩き大きな声で呼びかけるもまったく反応はなし、ただ呼吸はしっかりとしていました。Kさんのシャツは嘔吐物で汚れていました。指につけたパルスオキシメーターも98%と正常値、意識レベルは低下していますが緊急度はなさそうです。
隊員「隊長、呼びかけに反応はなし、呼吸も脈拍もしっかりしています、サット(SPO2のこと)は98」
他の同僚「いいから早く運べよ!お前らに何が分かるって言うんだよ!」
女性の同僚「ちょっと、やめなさいよ!」
ふぅぅ…やれやれ…こっちには攻撃的なタイプの酔っ払いがいる…。
隊長「車内収容しよう!今すぐ搬送しますから、患者さんが楽なようにストレッチャーを準備しますからね」
隊長が攻撃的な同僚に諭すように説明しています。Kさんをメインストレッチャーに乗せ車内収容しました。
隊員「Gさんが同乗してくださいますよね?ここは繁華街で車の通りも多いのですぐに離れますからどうぞ乗ってください」
Gさん「はい、分かりました」
通報者のGさんはとても落ち着いている方でした。あんな攻撃的な同僚がいるこの現場で選定などしたらどうなるでしょうか?「いったいいつまでここにいるつもりだ!とっとと運べよ!」などとののしられ活動の支障になることが目に見えています。罵声を浴びる程度ならまだ良いですが、下手をすれば車両を壊されたり殴られたりすることだってあり得るでしょう。
隊長「Gさんに一緒に行っていただきますから、ここは道も狭いし車の往来も激しいですから離れますね」
他の同僚「分かりました」
隊長「いいよ、行こうか」
機関員「はい…了解」
救急車は静かに選定できる場所までとゆっくりと現場を離れました。

 車内収容
静かになった救急車内、Kさんの詳細観察を実施します。特に怪我をしていることもなくバイタルも特に問題はありませんでした。ただ…
隊員「Kさん、胸を押しますよ、痛いですよ〜」
傷病者の意識の覚醒度を判断するため隊員はKさんの胸の真ん中をぐりぐりと押したのでした。それでもKさんはまったく反応なし。
隊員「意識レベル300ですね」
隊長「ああ…Kさんは相当お飲みになられていますよね?かなりのお酒の臭いですが」
Gさん「ええ…でもそんな弱いヤツじゃないんですよ、今日も1次会の途中で寝てしまいましたから潰れるような量ではないはずなのですが…、ただ、昨日はほとんど徹夜状態で仕事をしているんです、だからかもしれないです」
Gさんの話によれば長期に渡り準備してきたプロジェクトは今日が節目だったそうで、昨夜は同僚のほとんどがその準備を深夜までやっていたそうです。中でもKさんは朝方まで働きほとんど寝ていないとのこと。そして今朝から夕方にかけてがこのプロジェクトの本番、無事に終わったとのことで打ち上げで大いに盛り上がったのだそうです。ほとんど徹夜状態で疲れが溜まっている中なら普段なら酔わない量でも潰れかねない。急性アルコール中毒の可能性が非常に高そうです。
隊長「Kさんのご家族には連絡が取れますか?」
Gさん「ええ、もう奥さんに連絡が付いています。病院が決まったら来てくれるように言ってあります」
隊長「そうですか、それは良かった」
同僚の同乗、奥さんが駆けつけてくれることが分かっていました。酩酊状態の方の搬送先医療機関選定は苦慮することが多いのですが、家族や同僚が付き添ってくれるとなるといくらかましなのです。それでもこの活動もすぐには受け入れ先は決まらないのでした。

 医療機関選定
機関員「…そうですか、分かりました他を当たってみます…」
隊員「R病院はダメですか…」
機関員「ああ、他の患者さんの処置中で手が離せないって」
隊員「次は…H病院ですよ」
機関員「ああ、H病院ならきっと受けてくれるな、もうこれで4件目だし」
隊員「そうですね」
このH病院は選定に苦慮しているような事案の時、何かと助けてくれる医療機関です。他の病院が避けたくなるような内容も受け入れてくれることが多く、救急隊からはとても頼りになる存在です。救急病院としての使命を果たそうと崇高な意志を持って戦っている医療機関であると思います。そのせいもあってか地元住民の評判と言えば…(献身的な医療機関の評判というお話で紹介させて頂いています)はぁぁ…またH病院に負担をかけなければならないのか…。
機関員「そうなんですよ…ええ…他はどこも断られてしまって…すみません、よろしくお願いいたします、それではそちらに向かいます」
隊員「さすがH病院ですね」
結局また、献身的な医療機関に負担をかけることになってしまいました。

 医療機関到着
看護師「Hさん!Hさん!起きてください!」
看護師が大声で呼びかけても揺すっても無反応のHさん
看護師「Hさん、痛いことするよ」
そう言うと看護師はHさんの乳首をつねったのでした。救急隊の痛み刺激による覚醒の評価は胸の真ん中を押すことが一般的ですが、医療機関では乳首をつねることもあります。考えただけでも痛いです…それでもHさんは…
看護師「本当だ、本当に300なのね」
隊員「ええ…」
看護師「どれだけ飲んだのかしらね?」
隊員「さあ?でもそんなに長時間飲んでいた訳ではないみたいなのですけどね」
看護師「診察の前にこの格好じゃ…着替えさせますね」
隊長「はあ、そうですね…お手伝いしますよ」
看護師「すみません、お願いします」
看護師2名と救急隊長と隊員とでHさんの吐物で汚れた衣服を脱がせます。
隊長「Hさん、まずこのシャツを脱がすよ、着替えないと…ねえ?」
相変わらずHさんから返事なんてありません。酒と胃酸臭いシャツを脱がせるのも一苦労です。病院の衣服に着替えさせて…と。あれ?何だこの暖かいのは…あれ?
隊員「アアアアアァァァぁぁぁ…」
看護師「何!?あっ!…あ〜あ…」
隊長「あっ!あ〜あ…やられちゃったなぁ…」
病院のストレッチャー上で小便をしてしまったHさん、履いていたジーンズはびしょびしょになり、さらにストレッチャー上に引いてあったシーツを濡らし、滴り垂れた小便は救急隊員のズボンに流れて靴の中までしみ込んだのでした。
隊員「Hさん…」
看護師「あなたも着替えないとね」
隊員「はぁ、そうですね…」
看護師「ふぅ…これで上着だけって訳にはいかなくなっちゃったわね、下も着替えさせないと」
Hさんのジーンズはずぶ濡れ、さらに下も着替えさせえることになりました。するとさらに…この臭いは…。
看護師「あ〜あ…こりゃ大変だわ…」
隊長「本当だ…」
漏らしていたのは小便だけではなかったのか…Hさんの履いていたパンツは大便でぐちゃぐちゃ、ジーンズにまで染み付いていました。パンツとジーンズを袋に入れて着替えさせる看護師さんたち…。
看護師「ねえ、Hさん、あなたどれだけ飲んだのよ?うんち漏らすまで飲むことないじゃない?ねえ?」
グーグー寝息を立てているHさん。
看護師「救急隊さん、ちょっとこの足持ち上げててくれる?お尻が拭けないから」
隊員「ええ…はぁぁ…」
看護師「何?」
隊員「いえね…看護師さんにこんな格好でこんな風にされるかと思うと…アル中になんてなれないなぁって…」
看護師「あら…私たちはしょっちゅうよこんなの、救急隊さんも飲み過ぎちゃったらやってあげるわよ」
隊員「いえ…ここまでは飲み過ぎませんから大丈夫ですよ、こんなの見たらなおさら…」
本当にお疲れ様です、看護師さんも本当にたいへんなお仕事ですね。
病院のストレッチャーを小便まみれにし全身を自身の糞尿で汚してしまったHさんはオムツを履かされ全身を病院着に着替えさせられて、それでもまだ無反応、グーグーいびきをかいえているのでした。医師の診察が始まり点滴処置、尿道カテーテルが入れられるなど処置が行われました。
事務員「Hさんはこちらにいます?」
看護師「ええ、この方ですけど」
事務員「今、奥様がみえてますけど」
看護師「あら、先生、奥さんが来たそうですよ」
医師「ちょうどいいや、入ってもらって」
慌てた様子で駆けつけた奥さん、診察室に入り医師から状況の説明を受けていました。同僚からは夫が意識不明で救急車で運ばれると連絡を受けたのです、それは慌てて駆けつけるはずです。
奥さん「先生、それじゃあ大丈夫なんでしょうか?」
医師「ええ、まあ、急性アルコール中毒だと思います、今点滴をしていますのでもう少ししたら分かるようになると思いますよ」
奥さん「ああ…良かった…申し訳ありませんでした」
安堵の表情、一安心した奥さんは医師、看護師、救急隊にペコペコ頭を下げるのでした。
看護師「あの…奥さん、これどうします?」
奥さん「えっと…それは?」
看護師「ご主人の服です、シャツは吐物で汚れていたし、パンツもジーンズも…」
透明のビニールに入れられたHさんの衣服はそれは無残な姿になっていました。
奥さん「まさかこの人…下の世話までしていただいたのですか?」
看護師「ええ…まあ」
安堵から怒りの表情、
奥さん「あんたねえ!いい加減にしなさいよ!これで何度目なのよ!冗談じゃないわよっ!」
バシッ!
そう言うと奥さんはストレッチャー上に横たわるHさんの額をおもいっきりひっぱたいたのでした。
Hさん「うううぅぅぅ…」
あらら?レベル300のはずのHさんが唸った。
救急隊「まあまあ!奥さん、お気持ちは分かるけど旦那さんは今は具合が悪いのだから」
怒りから今度は悲しみの表情
奥さん「うぅぅぅ…情けない…ここ最近はなかったんですけど、昔に何度もあるんです、その度に漏らしているんです、いつもいつもいろんな人に迷惑をかけて…本当に申し訳ありませんでした」
今度は泣き出す奥さん、過去にも何度も同じようなことがあったとのことで…お気の毒です。
看護師「で、奥さんどうします?これ、うちで捨ててしまっても良いけど」
奥さん「はい、お願いします、捨ててください」
でもあのジーンズって確か高いヤツだったような?
看護師「いいのかしら?このジーンズとかも」
奥さん「かまいません!捨ててください!」
泣きながらも怒っている奥さん、Hさんの衣服はすべて廃棄されることになったのでした。
「急性アルコール中毒 中等症」

 帰署途上
隊長「やられちゃったなぁ?」
隊員「ええ…完全にやられましたよ、はぁぁ…大人なのに…」
ズボンを巻くり上げ靴下を脱いだ隊員は足にアルコールを吹きかけていました。
隊長「本部に事情を入れておいてやるよ、帰って着替えないとな」
隊員「ええ、お願いします」
糞尿や血液などで衣服が汚れることは想定される事態です。ただ靴にまでしみるほどやられることは想定外、さすがに替えの靴までは救急車には積んでいませんでした。
隊員「それにしても奥さんも怒って泣いてって忙しかったですね」
隊長「ああ、おもいっきりひっぱたいたもんなぁ」
隊員「Hさんも唸っていましたね…観察が甘かったかな?300じゃなかったんですね」
隊長「まあ少しは酔いも覚めてきているからかもしれないけどあれは乳首をつねられるより痛いんじゃないのか?」
機関員「小便もうんこも漏らすほどに酔っ払ったら気持ちよいのかもな?」
隊員「どうでしょうね?でも尿道に管を入れられて…目が覚めたら激怒している奥さんが枕元にいる訳ですよね?あんな格好で看護師に尻を拭かれて…オレは絶対に嫌ですね」
隊長「あれだけの酩酊状態だから今晩は個室管理だってさ」
機関員「それじゃ会計でまた奥さんが激怒だな」
隊員「そうでしょうね」
ホテルの1日はチェックインからチェックアウトまでですが、医療機関の1日は日付の通りであるのが一般的です。Hさんを医療機関に運び込んだのは22時頃、23時に入院すれば1時間で日付が変わってもそれは1日分になる訳です。入院は2日分、個室管理と言うことはきっと差額ベッド代が発生していて、きっとそれは数万円だと思われます。
隊長「あのジーンズって高いのかい?」
隊員「ええ、ベッカムが履いているとかで話題になったことがあるんですよ、オレも詳しいことは知りませんけどきっと数万円じゃないですかね?」
隊長「差額ベッド代に自慢のジーンズ…Hさんにはずいぶん痛い出費になったな」
隊員「ズボンがやられたのはオレもですよ、これは洗いますけど靴下はもう捨てます…」
機関員「宝くじでも買ったらどうだい?」
隊長「うんが付いているって?」
機関員「そうそう!」
隊長・機関員「アハハハハハ〜」
隊員(さすがにうんはつけられてないし…ちぇ…オヤジどもめ…)
日付が変わろうとしている深夜の町、救急車には裸足の救急隊員が乗っているのでした。
隊員「はぁぁ…足がなんかスゥーっとする…」


 この記事に対する皆さまからのご意見・ご感想をお待ちしています。酔うといくら揺すっても叩いても起きなくなる知人や友人に困らされたことはありませんか?たくさんのコメントをお待ちしています。

JUGEMテーマ:救急救命士
posted by: パラ吉 | 仰天救急現場報告 | 12:01 | comments(8) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - 裸足の救急隊員 | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
オメエぶっ殺すぞ!
  当サイトでは数々の酔っ払いに関わる救急現場の話を紹介させていただいてきました。酔っ払い方も人それぞれ様々です。陽気になりとにかく楽しくなる笑い上戸な人、悲しくなり泣いてしまう泣き上戸な人、そして何より周りを困らせるのが攻撃的になる怒り上戸な人、さらには深い眠りに入ってしまいどんなに叩こうが揺すろうが起きなくなってしまう人、眠り上戸?そんな言葉はありませんね…。このサイトをご覧の皆さんもこのような酒癖を持つ知人の一人や二人がいるのではないでしょうか?では「どのタイプに困らされたか?」と問われれば怒り上戸のタイプではないでしょうか?何かと突っかかってきて暴言を吐いたり手を出したり…私たち救急隊を困らせる酩酊者もやはりこのタイプなのです。酔うと日ごろのストレスを他人にぶつけてしまう様なこのタイプとは一緒に飲みたくないものです。

 これから深夜にさしかかろうという時間帯、消防署に出場ベルが鳴り響きました。「救急隊出場、○町○丁目…○通り歩道に怪我人、男性は倒れており頭部からの出血があるとのこと、通報は通行人のWさん」との指令に救急隊は出場しました。指令先の○町は飲食店が多いちょっとした繁華街からすぐ近くです。この時間に路上に倒れているとなると酔っ払いである可能性はかなり高いです。

 出場途上
緊急走行する救急車内、隊員は通報電話番号に連絡を取りました。
隊員「もしもし、通報していただいたWさんですね?救急隊の者です」
Wさん「どうも、よろしくお願いします」
隊員「倒れている方のご様子を教えていただきたいのです、Wさんのお知り合いですか?」
Wさん「いいえ、私がたまたま通りかかったら男性が倒れていたので…」
隊員「そうですか、その方は意識はありますか?頭から出血があるとの事でしたが手当てはされていますか?」
Wさん「意識はあります、手当てはちょっと…」
隊員「お話はできる状態なのですね?ひょっとして酔っている様子がありますか?」
Wさん「ええ…私が大丈夫ですかと声を掛けたのですが…何かうるせえとかそんな事を言われてしまって…頭から出血しているみたいですよ、もう声を掛けるのはちょっと…」
隊員「分かりました、あと数分でそちらに到着できると思いますのでお待ちください、そちらでもう少しお話を聞かせてください」
隊員は電話を切り収集した内容を隊長と機関員に説明しました。
機関員「やれやれ…また酔っ払いか、あの辺りの店で飲んだ帰りかな?」
隊員「ええ、きっとそうですよ」

 現場到着
指令先の歩道には男性が立っており手を振っていました。その先には男性がうつ伏せになり倒れていました。あの手を振っているあの男性がWさんでしょう。
隊長「どうも、Wさんですね?ご協力ありがとうございます」
Wさん「どうも、あの人なんですけどね…大分酔っているみたいなのですけど…」
隊長「少し状況を教えていただけますか?」
隊長はWさんから状況の聴取、隊員と機関員は傷病者の下へと向かいました。
隊員「こんばんは、ご主人さん、ご主人さん!どうされましたか?」
ムクリと顔を上げた男性、顔は血に染まっていました。
男性「何だオメエぶっ殺すぞ!」

 傷病者接触
初対面の人と始めて交わす言葉にはかなり気を使うものです。「はじめまして○と申します…」自己紹介から?「こんにちは…」挨拶から?意外と選択肢は無いような気がします。「ぶっ殺すぞ」は選択肢になさ過ぎて意表をつかれました。ただこのひと言で一瞬で判断がついたことがありました。…はぁぁこりゃこの活動一筋縄ではいかないぞ…。
隊員「殺す?…そんなこと仰らずに、お怪我をされているみたいですが大丈夫ですか?」
男性「うるせえ、ほっとけよバカ野郎!」
そう言うと男性はまた路上に倒れ込んだのでした。傷病者は50代くらい男性、明らかに頭部から出血しているようですが部位までは確認できませんでした。怪我の部位を確認し処置、それからバイタルを測定させてもらえないことには活動は前に進みません。しかしそれが簡単な相手ではないことは明らかです。酔うと攻撃的になる方を搬送するなんてことは日常茶飯事、こんな時はどうしたら良いのか、テキストには一切出てこない救急隊員たちが現場でいつの間にか学んでいくことを生かさなければ…。さて、こんな時は…
隊員「ご主人、まあまあそんな事は仰らずに、お怪我したところを見せてくださいよ、ちょっとお体に触りますよ」
傷病者「うるせえ!オラァ!」
隊員「おっと」
腕を跳ねのけた傷病者、その腕をスルリとかわす隊員、いつ手が出てきても良いように傷病者の斜めからそ〜っと手を伸ばしたからです。ふぅ、こりゃダメだ…下手に近づくと手が出てくるぞ…。この様子を見ていた隊長から声がかかります。
隊長「おい、もういい!こっちに来いよ!」
隊長「はい、了解…」
傷病者から離れること約10m、さてどうしたものか…呆然とする救急隊員たち。
Wさん「あの〜、私はもうよいでしょうか?」
隊長「ああ!すみません、ご協力ありがとうございました、あとは私たちが対応しますから、本当に助かりました」
Wさん「いいえ、たいへんですね?」
隊長「あは…いや、まあ…そうですね…」
通報者のWさんは帰っていきました。こんな現場を数多く経てきて学んだことは諦めること、たった3人の救急隊だけで身の危険を冒してまで活動に当たることなんてありません。
隊長「ひとまず本部に連絡しようか、この活動は長時間を要する見込みって、警察官を要請しよう」
機関員「了解、連絡を入れてきます」
下手に接触すれば暴力を受ける可能性がある。これ以上、私たちだけで活動することはできないと現場に警察官を要請しました。警察官が到着するまでの間、私たちは傷病者を遠くから通りかかる自転車などとぶつからないように見守ることにしました。

 警察官到着
要請から10分ほどして警察官が駆けつけました。
隊長「どうも、よろしくお願いします」
警察官「どうも、ああ…あちらの方ですか?」
隊長「ええ、私たちが声をかけても手が出てきてしまって…お願いします」
警察官「はあ…分かりました」
改めて警察官と共に傷病者に声をかけます。
隊長「ご主人、どうされました?ねえご主人さん!」
傷病者「うう、う〜ん…」
眠り込んでいる様子の傷病者
警察官「旦那さん、ダメだよ!こんなところで寝ちゃ!ねえ!」
傷病者「うるせえってんだよ!」
警察官「おはようございます旦那さん、ダメですよこんなところで寝ていたら…お怪我をされているじゃないですか」
傷病者「うるせえってんだよ、オレが何したって言うんだ!ぶっ殺すぞ!」
警察官「殺さない、殺さないよ、こんなところで寝ちゃダメなんだよお父さん」
さすが警察官、酔っ払いの扱い方の慣れたこと…こちらもプロです。この様子を見ていたもう一人の警察官が呟きました。
警察官「はぁぁ…またか…」
隊長「ご存知の方ですか?」
警察官「ええ、まあ…うちの交番の者はみんな知っていますよ、もうこれで何度目だろう?いつも酔ってはこの辺りの路上で寝込んでいるんですよ、この前なんて車道の真ん中でですよ…その時も怪我をしていて…その時にも救急隊の方にはお世話になっているはずですよ」
隊長「そうでしたか…私たちはこの町の救急隊ではないもので…」
少しの間、警察官の説得が続きました。はじめは「殺すぞ」やら「バカ野郎」などなどの暴言を吐いていた傷病者も落ち着いた口調の警察官の対応に徐々に落ち着いて話を聞くようになってきました。
警察官「旦那さん、お怪我しているから救急隊に手当てしてもらおうよ、ねえ?」
傷病者「うるせえなぁ、もう勝手にしろよ」
よしよし、そろそろいけそうじゃないか。手が出てくる様子もなくなってきたので警察官と共に救急車に車内収容しました。

 車内収容
明るい救急車であれば怪我の部位など詳細な観察ができます。警察官は傷病者の身元を確認していました。と言っても傷病者の持ち物などを詳細に調べることなどしなくても…
警察官「なあ、Fさん、Fさんは○町に住んでいるんだったよな?今日は奥さんは家にいるのかい?」
Fさん「いねえよ、アイツは仕事に行っているはずだ」
何度も保護している方です。警察官は住所や家族構成まで把握しているのでした。傷病者は50代の男性でFさん、この町内に住んでおり奥さんと一緒に住んでいるそうです。過去にも何度も酔っ払っては路上に寝込むことがあり、警察官に自宅に送り届けてもらったことも度々、怪我をしており救急車で医療機関に搬送されたことも何度かあったそうです。少し落ち着いたFさんは救急車内のストレッチャー上に横たわりバイタルも測定することができました。さあ、あとは創の手当てです。
隊員「Fさん、顔を拭きますよ、ここが痛みますか?」
Fさん「痛たたたた!痛てえな!コラ!」
隊員「そりゃ痛いですよ、ほらこんなに血が付いている、結構切れていますよ、ほら?」
Fさん「本当だな」
隊長「Fさん、痛いでしょ?多分縫わないといけないくらい切れているよ」
Fさん「別に痛くねえよ」
隊長「いやいや、そりゃ今はお酒が入っているからですよ、病院で診てもらわないとだめだよ」
Fさん「痛くないって言っているだろう!お前らが触ったから痛かったんじゃねえか!大丈夫だ、帰る!」
隊長「そんなこと仰らずに、ねえ?」
Fさん「うるせえよコラ!テメエ、帰るって言っているだろう!」
自宅に帰ると訴えるFさん、再び興奮し私たちに手を出そうとしました。
警察官「ほら!何やってるんだよFさん、手を出すんじゃないよ!」
Fさん「何だとコラ!テメエらオレが何したって言うんだよ、ぶっ殺すぞ!」
暴言を吐き暴れるFさん、救急車の後部座席には若い警察官2名が乗り込み押さえ込んでいました。車外に出た隊長と隊員、外で待機しているベテランの警察官に状況を説明します。
隊長「怪我はね…縫合の必要があると思います、ただ創よりも心配なのは頭の中ですね…万が一出血などがあると…これじゃあ保護はできませんよね?」
警察官「そうですね…怪我をしているとなると…治療を受けてからなら保護できますが、警察署で容態が変わったなんてことになったら大変ですからね」
ただこのまま選定しても受け入れ先は決まらないでしょう。診察室でも暴れたり暴言を吐くことが容易に予想できます。処置をしてくれる医師や看護師に手を出しかねない状況です。隊長とベテラン警察官は協議し、搬送の際には警察官の同乗、医療機関での治療にも救急隊と警察官とで立ち会うこととしました。隊長とベテラン警察官がどのように対応するか相談している間にも救急車内では暴れようとするFさんを若い警察官が2人かかりで取り押さえていました。体力のある警察官に2人かかりで押さえつけられれば酔っ払いなど身動きが取れる訳がありません。Fさんも疲れてきたようで次第に大人しくなってきました。
若い警察官「ねえ、Fさん、別に私たちも手荒なことなんてしないよ、救急車は具合の悪い人が乗るものなのだから暴れたりしないでよ、ねえ?」
Fさん「分かったよ…」
若い警察官「それじゃあもう抑えたりしないから、ねえ?」
Fさん「ああ…」
若い警察官「病院で治療を受けましょうよ、救急車で搬送してもらえるから」
Fさん「ああ…」
疲れたFさんは意外と素直に医療機関にいくことを了承しました。とは言え…やっぱりなかなか受け入れ先はきまりませんでした…。5件いや6件目の選定だったでしょうか、治療が終わるまで警察官も救急隊もしっかりと立ち会ってくれることを条件に受け入れ先が決定しました。よし!やっと受け入れ先が決まった。この頃には…

 現場出発
若い警察官が救急車に同乗、あとの警察官は後からパトカーで搬送先医療機関に駆けつけてくれることとなりました。
若い警察官「はぁぁ…ったくいい気なもんですよね」
隊長「本当ですね」
Fさん「zzz…ぐぅぅ〜〜…zzz」
Fさんはストレッチャーの上で気持ちよさそうにいびいをかいて熟睡していました。
若い警察官「もう何度目になるか分かりませんよ、いつも道で寝ているんです、その度ですよ、暴れてみたり暴言吐いてみたり…」
治療の最中も熟睡してくれていれば良いのだけれど…。

 医療機関到着
救急隊がFさんに接触してから警察官を要請し、さらに受け入れ先決定まで時間を要しています。大分時間が経ち、搬送中に熟睡、少しは酔いも覚めて大人しく治療を受けて帰ってくれるのではないだろうか?そんな期待を見事に打ち砕くFさん…
Fさん「痛てえな!痛てえって言ってんだろ!コラ!」
看護師「ダメよ!ちょっと動かないでFさん、今、先生が消毒してくれているんだから」
Fさん「痛てえって言っているだろう!ぶっ殺すぞ!」
警察官「殺さないよ、治療してもらっているんだから大人しくしていないと」
医療機関の処置台の上、やっぱり暴れるFさんを警察官と救急隊とで抑えて創の消毒は終わりました。
医師「ふう…これ以上は無理ですね、ねえFさん、どうする?消毒はしたけどその創は縫わないとダメですよ、でももう嫌なんでしょ?」
Fさん「ああ、もういい!帰る!」
痛い思いをしてまたも興奮しているFさん、医師の治療を拒否したのでした。
医師「頭の中に出血などがないか検査もした方が良いとは思うのですがそれはどうしますか?」
Fさん「帰るって言っているだろう!ほっとけよバカ野郎!」
警察官「なあ、Fさん、こんな時間に治療してくれている先生にあんたなんてこと言うんだよ」
Fさん「お前らが勝手に連れてきたんだろう」
警察官「分かったよ…ほら、消毒はしてもらったから帰ろう、ねえ」
Fさん「ああ…」
帰るということで納得したのか処置台に座ったFさん、
看護師「それではFさん、今日はもうこんな深夜ですから一時金を置いていってください」
Fさん「一時金?金を取るのか?」
看護師「そうですよ、治療を受けたのですから、ただ今は深夜だから後日に清算になります、保険証などお持ちになって後日また来てください、余った分はお返ししますから」
支払いに関してまたトラブルになるかと思ったらこれに関してはまたも意外と素直に支払いをするFさんなのでした。領収書を貰ったFさん、これでやっと終わる…。
警察官「それじゃあFさん帰ろうか」
Fさん「嫌だ、オレは眠い、ここで寝る」
終わらない…のか…。
警察官「は?あんた何言っているの?」
Fさん「眠いんだ、いいからお前らは帰れよ」
隊長「Fさん、そこは治療をする場所なんだからそんなところで寝ちゃだめですよ」
Fさん「うるせえよ!金は払ったんだからほっとけよ」
いつもこの手の酩酊者を扱う時に思うのですが、(酩酊者への正しい救急活動とは?の活動など)本当にまだ酔っているのか疑問です。少なくとも数時間もの間に酒は入っておらず騒ぎ続けて…本当にまだ訳が分からないほどに酔っているの?何か意地になっていない?そんな風に思うのです。さっきまで帰ると言っていたFさんは今度は帰らないと処置台の上で寝込み始めたのでした。
隊長「ねえ、Fさん、そんな事を仰らずに、ここは患者さんを治療するところなのですよ、あなたがここにいたら他の患者さんの治療が出来ないじゃないですか、他にも治療を待っている患者さんがいるのですよ、ねえ?」
警察官「さっきは帰るって言っていたじゃないですか、病院に迷惑をかけないでよ」
Fさん「うるせえ、ほっとけ!お前らは帰ってよし、オレはここで寝る!」
腕組みをして遠巻きに見ている医師と看護師、
隊長「先生、すみません、ご迷惑をかけて」
医師「いやぁ大変だね」
余裕の医師と看護師、こんな時は救急隊と警察官でしっかり対応しますと約束して搬送してきています。この深夜、診察を待っている患者さんはいませんでした。ただ、今、急患が入ったならどうなるでしょうか?診察室はFさんに占領されているのです、他の救急隊から搬送連絡がきてもきっと断らざるを得ないでしょう。確かにこんな方を医師と看護師だけで対応できるはずがありません。警察官と救急隊とで散々説得を続けましたがFさんは処置台の上でふてぶてしく一歩も動かないのでした。
ベテラン警察官「ねえ、Fさん、これ以上迷惑をかけるなら力ずくで連れて行くけどそんな事はやりたくないんだ、パトカーで送っていくから帰ろう」
Fさん「上等だよ!お前らにそんな権限があるのか?やってみろよコラ!」
ベテラン警察官「権限ならあるよ…やれるけどそんなことはしたくないからこうやって言っているの?どうするの?帰らないの?」
Fさん「ふん…」
ベテラン警察官「仕方ないな…」
若い警察官「はい」
診察室を出て行った若い警察官、あれをやるのか…。
隊長「ねえFさん、悪いことは言わない、パトカーで家に送ってくれるって言っているんだから帰ろう、ねえ?」
隊員「そうですよFさん、こんなに優しいおまわりさんはなかなかいませんよ、送ってもらって家でぐっすり寝たらいいじゃないですか、ねえ?」
Fさん「うるせえんだよ!」
結局、最後の最後まで話にならないFさんなのでした。若い警察官が持ってきたのは布製の拘束具、ビニール製のシートのような物も見たことがあります。精神状態が不安定で自傷他害危険がある方を連れて行く際などに使用される物のようで、そんな時はこの拘束具にグルグル巻きにされてパトカーで搬送されることになります。(精神科ERと言う本でこんな状況が紹介されています)
ベテラン警察官「ねえ、最後の最後だよFさん、帰ろう?」
Fさん「だから帰らないって言っているだろう」
ベテラン警察官「じゃあいいね?さっきも言ったけどこれ以上、病院に迷惑かけるなら力ずくで連れ出すから」
Fさん「ああ!やれるもんならやってみろ、バカ野郎!」
警察官に抱え上げられたFさん
Fさん「この野郎!ふざけるな!」
振り払おうとした手が警察官のメガネを弾き飛ばしました。
警察官「手ぇ出してんじゃねえよ!コラぁ〜!」
先ほどまで手荒なことはしたくないと優しい対応をしていた警察官たちでしたがどうやらスイッチが入ったようです。暴れまくるFさん、飛び交う怒号、汚い言葉もそれはそれは飛び交いました。本気の警察官を相手に50代の酔っ払いが対抗できるはずなんてありません。あっという間にぐるぐる巻きにされたFさんは身動きひとつとれなくなりました。診察室から運び出されるFさん、すがり付くような目でこの様子を見ている私たちにこんな事を言ったのでした。
Fさん「なあ、オレは手なんてだしてないよな?なあ?」
それに答える間もなくFさんはパトカーの後部座席に乗せられ連れて行かれました。いつ終わるのだろうか?果てしなく思われた活動はあっという間に終了しました。
「急性アルコール中毒 軽症」
あれ?頭部の怪我は?

 帰署途上
隊員「あれって公務執行妨害ですかね?」
隊長「それなら手錠をかけるんじゃないのか?多分、公務執行妨害にはしないんじゃないかな?」
隊員「でも警察官のメガネを飛ばしていたじゃないですか、あれでも充分ですよね?」
隊長「ああ、優しいよな?逮捕されてもおかしくないよな?あまりに酷い酔っ払いはその気になれば逮捕できる法律もあるみたいだぞ」
機関員「逮捕すりゃいいんですよ、あれはどう考えても悪質ですよ、酔っていたからで済まされることじゃないって」
隊員「それにしてもFさんみたいに飲むと攻撃的になる人って本当に困りものですね…」
機関員「本当…何でもっと楽しく飲めないものかね?」
隊員「オレはあのタイプとは絶対に飲みたくないですよ、あそこまではいかなくてもいますよね、酒が入ると言わなくて良いことを言い出す人…」
隊長「だから一人で飲んでいたんじゃないのか?あれじゃ誰も一緒に飲んでくれないだろう」
機関員「寂しいのかもね…」

 酔うと攻撃的になる人、暴言を吐く、さらに暴力に走る、本当に対応に困ります。Fさんは家まで送ってもらったのか?朝まで留置所で過ごしたのか?家族が迎えに来たのか?はたまた逮捕されたのか?あっという間に連れて行かれたためその後は全く分かりません。このように様々な酔っ払いの中でも一番困るのは攻撃的なタイプです。あと困るタイプと言えば…寝込んで全く起きなくなるタイプでしょうか。起きないだけならまだ良いのですが、熟睡の余り大人なのに…そんな話は裸足の救急隊員と言うお話で…

 この記事に対する皆さまからのご意見ご感想をお待ちしています。みなさまの周りにも困った酔い方をする知人友人はいませんか?そんな話などなどみなさまからのたくさんのコメントをお待ちしています。


【参考】


JUGEMテーマ:救急救命士
posted by: パラ吉 | 救急救命士たちのため息現場 | 00:40 | comments(2) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - オメエぶっ殺すぞ! | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
熱性痙攣じゃないぞ…
  小学校に上がる前のお子さんの下に駆けつける現場の中でもかなりの頻度を占めているのが突然の痙攣(けいれん)による要請です。発熱していたお子さんが突然、痙攣を起こし慌てた両親が救急要請に至るという場合が多いです。熱性痙攣は6ヶ月から6歳くらいまで(テキストにもより4歳くらいとしているものもあります)のお子さんが発熱した際、熱が上がっていく過程で起こるものとされています。ひきつけとも呼ばれ数十秒から数分で消失することが多いです。痙攣の最中はしっかりとした呼吸をすることが出来ず顔色も真っ青になるので周りの人たちはそうとう慌てることになりますが、数分で治まることがほとんどなので救急隊が駆けつけた時にはすっかり治まっていることがほとんどです。こんな事案の場合、搬送先医療機関でも「熱性痙攣」と傷病名がつき、そのほとんどの初期診断は軽症です。しかし、結果的には軽症であっても周りにいる人たちには痙攣の最中は途方もない時間に感じられ、緊急性を感じるであろうことは良く分かります。救急車内で一安心したお母さんが「あのまま死んでしまうのではないかと思って…」よくそんな言葉が聞かれます。傷病者がお子さんの事案では最も出会う機会の多い内容です。お子さんの痙攣による要請では10件中9件以上は熱性痙攣の事案でしょうか。お子さんの発熱、痙攣と聞けば「熱性痙攣」だろうなと想像します。しかし、現場に先入観は禁物、例外に出会うのもまた現場だからです。

 「救急出場、○町○丁目…W方急病人、1歳のお子さんは痙攣を起こしたとのこと、通報は母親から」との指令に私たち救急隊は出場しました。
隊長「1歳の子の痙攣か」
隊員「熱性痙攣でしょうかね」
隊長「ああ、多分ね」
要請先のWさん方までは10分弱の距離です。通報先電話番号に連絡を取り傷病者の状況を聴取することにしました。熱性痙攣の場合、数十秒から数分で消失することがほとんどですから、到着時にはもちろん、出場途上に連絡を取っている際にも既に治まっているという場合が非常に多いのです。ところが…
隊員「もしもし、Wさんのお宅ですね?救急隊です。119番通報していただいたお母さんですね?今のお子さんの様子を教えていただけますか?」
お母さん「あの…あの…まだ痙攣が続いていて…早く、早く来てくださいっ!」
隊員「お母さん、落ち着いてください、救急隊はそちらに向かっていますから、お子さんはまだ痙攣が続いているのですね?」
お母さん「はい、まだ続いています、真っ青な顔色をしています」
隊員「呼吸はできていますか?」
お母さん「呼吸は…はい、呼吸は速いですけどできています」
隊員は気道の確保、口の中が粘液や嘔物でつまらないよう救急隊到着まで見守るように指示し電話を切りました。
隊員「隊長、まだ痙攣が続いているそうです、お母さんは大分慌てています、気道の確保を指示しました」
隊員「了解、熱性痙攣じゃないぞ…」

 現場到着、傷病者接触
Wさんのお宅の到着、傷病者は1歳になったばかりの女の子でした。部屋の床上に仰向けでおり、指示とおり背中には厚手のタオルが入っており気道確保がしっかりと取られていました。顔貌は蒼白、全身性の痙攣が続いていました。
隊長「すぐに酸素を準備しろ!」
隊員「了解」
隊長が傷病者の観察をすすめます。隊員はすぐに酸素投与の準備を始めました。痙攣が継続している、そしてこの顔色、呼吸がしっかりとできず全身に酸素が運べていない状況であることがパッと見てすぐに分かったからです。
隊長「意識レベルはJCS300、呼吸は36回、浅いけど止まってはいない、脈拍は150くらいだ」
隊員「隊長、酸素です、今のサチュレーションは…80%代です」
傷病者は全身性硬直性痙攣が継続していました。呼吸はできていましたが相当に浅く充分な換気ができているかどうか…サチュレーションは80〜85%くらいを示し不安定です。瞳孔は上方を向いていました。何よりこの顔色、酸欠状態であることは明らかでした。体温は39度代でした。
隊長「お母さん、お子さんは痙攣を起こされたことはありますか?」
お母さん「いいえ、初めてです」
隊長「痙攣を起こされてからすぐに救急車を呼ばれましたか?」
お母さん「はい、もう私…びっくりしちゃってすぐに119番しました」
隊長「…ということは、もう10分くらいは続いているな」
隊員「隊長、サチュレーションは99%になりました」
隊長「了解、呼吸は出来ているな」
隊員「ええ、ただ痙攣は治まりそうにないですね」
呼吸状態は浅く早く換気が充分であるとは思えませんが高濃度の酸素投与でサチュレーションはすぐに改善しました。母親からの情報だと3日前から発熱が続いており近所の小児科を受診、風邪だろうと解熱薬などをもらい帰ってきたとのことでした。熱が治まらないようならまた受診するよう指示されたとのことでした。
痙攣がもう10分も続いている…これは熱性痙攣じゃない…1歳になったばかりの赤ちゃん…ひょっとして?隊員は傷病者の頭を観察しました、…これは!やっぱり!
隊員「隊長、ここ!ほらここを触ってみてください膨隆していますよ」
隊長「本当だ、緊急度も重症度も高いな」
隊員「ええ、多分間違いないですよ」
隊長「3次選定するぞ、気道確保をしっかりとって安静に搬送、サチュレーションが落ちてこないかしっかり見ていろ」
隊員「了解」
機関員「了解、3次選定します」
救急隊は緊急度も重症度も高いと判断、直近の救命救急センターへの搬送を判断しました。

 今回の緊迫の救急現場もクエスチョン編とアンサー編に分けての更新です。クエスチョン編はここまでです。傷病者は救急隊の判断の通り、緊急度も重症度も高く3次選定は正解でした。もちろん熱性痙攣ではありません、ズバリ傷病名は何だったでしょうか?今回の事案の場合、頭部の膨隆から傷病名までも想定し、かなり確信を持って3次選定しましたが、仮にこれが無くてもバイタルから緊急度・重症度判断は高いと判断したと思います。皆さまからのたくさんのコメントをお待ちしています。
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posted by: パラ吉 | 緊迫の救急現場 | 07:48 | comments(5) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - 熱性痙攣じゃないぞ… | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
チェンジだチェンジ!
  このサイトでも何度も何度も紹介させて頂いている酔っ払いにまつわる現場のお話。救急隊員として活動する限りきっと話は尽きることはないのでしょう。いつもため息の現場、今日も酔っ払いにまつわるお話です。

 夜の消防署に出場指令が鳴り響きました。「救急出場、○町○丁目、○通り上、自転車と乗用車の交通事故、男性の怪我人が1名、110番からの転送、現在警察官が扱い中」との内容でした。これから深夜にさしかかろうとする夜中に救急隊は現場に急行します。

 現場到着
指令先の○通りを走行していくとパトカーの赤色回転灯が見えてきました。この現場は既に警察官が活動しています。警察官から申し送りを受けて状況を聴取する、情報収集に関しては難のない現場のはずです。ところが…。
警察官「だから?どこで跳ねられたっていうの?」
男性「それを調べるのがお前たちの仕事だろうが!オレは被害者なんだぞコラ!」
警察官「本当にあの軽に跳ねられたの?あなたとぶつかったのは間違いなく軽乗用車だった?」
男性「ああ軽だった!絶対軽だった!オレは被害者だぞ、分かっているのか!?」
何やら路上に立っている警察官と明きらかに酔っ払っている男性が大騒ぎをしているのでした。救急隊長が他の警察官に声をかけます。
隊長「どうも、救急隊です、交通事故の怪我人がいると来たのですが…怪我人はどちらですか?」
警察官「いや…それが…あの方なのですよ」
隊長「あれ?」
警察官「そう…あれです」
警察官と大声で言い争っているあの酔っ払いの男性が怪我人なのだそうです。身体をよく見せてもらわないことにはどこをどんな風に怪我しているかは分かりません。ただ少なくとも路上に立っていることが出来る状態、さらに警察官を相手に暴言を吐く程度に…
隊長「元気そうですね…」
警察官「いや…はあ…そうなんですよ…」
隊長「どんな事故だったのかまず状況を教えてもらえますか?」
警察官「はい…」
隊長「隊員は傷病者に接触して観察、怪我の状況を観察してくれ、オレは警察官から状況聴取するから」
隊員「了解」

 傷病者接触
隊員「こんばんは、救急隊です、お怪我されているのはあなたですか?」
男性「オレだオレオレ!車に跳ねられたんだ!」
傷病者は50代の男性でFさん、相当に酔っ払っていました。
隊員「そうですか、どちらをお怪我されていますか?頭は打ってはいませんか?」
Fさん「頭は打ってない」
隊員「そうですか、痛いところはどこですか?」
Fさん「それを調べるのがお前の仕事だろうが!」
隊員「いや…ですからどこをお怪我しているのか、どこが痛いのかをお聞きしているのですよ」
Fさん「そんなの見て分からないのか?それが分からなくて何が救急隊だコラ!」
隊員(ダメだこりゃ…相当にたちが悪いぞ…)
警察官「なあFさん、軽乗用車に跳ねられて怪我したんだろ?どこが痛いっての?」
Fさん「お前は犯人を捜せって言っているんだよ!オレは被害者なんだぞ!オレを跳ねた犯人をとっ捕まえて来い!」
警察官「Fさんよ、どこで跳ねられたかも分からない、どんな車だったのかも分からない、いつだったのかも分からない、それじゃ探しようがないよ、それでどこを怪我したのかも分からないって…あなた事故に遭ったの?」
Fさん「何だとこの野郎!オレは被害者なんだぞ!いいから早く犯人を捜しに行ってこいってんだよ!」
はぁぁ…さてどうしたものか…。Fさんはどこを怪我しているかも教えてくれず何やら興奮しており、とても観察させてもらえる状況ではないのです。困っていると状況聴取を終えた隊長がやってきました。
隊長「どうもFさん、何でも自転車に乗っていたら乗用車に跳ねられたんですって?」
Fさん「ああそうなんだ!なのにこいつら捜査をしようとしないんだ!」
隊長「まあそんなこと仰らずに、捜査も大切ですけどあなたは怪我人なのですからまずは怪我の手当てをしないと、ねえ?ここは暗くてよく分からないですから救急車の中でお体をよく見せてくださいよ」
Fさん「ああ…そうか…分かった」
さすがベテラン、この手の酩酊者の扱いも慣れたこと…。ベテラン隊長のテクニックでこの現場は上手く回るはずだ…なんて、このFさんはそんなに甘くはないのでした。

 車内収容
隊長が警察官から聴取してきた情報によると、Fさんは夕方からかなりの酒を飲み自転車で帰宅途上に乗用車と接触、怪我をしたとのことでした。相手の乗用車はFさん跳ね飛ばし怪我をさせたにも関わらずそのまま立ち去ったのだそうです。激怒したFさんは起き上がり自転車にまたがって乗用車を追跡しました。信号待ちしている乗用車を発見、窓を叩いてドライバーを怒鳴り散らしたようです。運転していたのは若い女性でした。いきなりかなり酔った男性に怒鳴り散らされどうやら「すみません…」とか言ったようです。
Fさん「オレを跳ねて逃げて申し訳ないってあの姉ちゃんも言っていたじゃないか、悪いと思ったからすみませんって言うんだろ?」
警察官「いやねぇFさん、あのお嬢さんはいきなりあなたに怒鳴られて驚いてすみませんって言ったみたいだよ」
Fさん「ふざけるな!あの女、オレをなめているのか!」
隊長「まあまあ、ねえFさん怪我をしているところを見せてくださいよ、あなたはどこを怪我されているの?」
Fさん「そんなことも分からないのかコラ!お前らそろって役立たずだな、この税金泥棒!」
はぁぁ…もう言いたい放題やりたい放題、Fさんは救急車内でもわめき散らし警察官と救急隊をののしり続けたのでした。
警察官「Fさん、分かったよ、私たちもあなたが車に跳ねられたと言うなら一生懸命捜査するから、だからあなたの知ってることを教えてくださいよ、あなたが跳ねられたのはどこ?」
Fさん「だからここをまっすぐ行った、え〜と…あっちの角のところだ」
警察官「さっきはそこじゃないって言っていたじゃない」
Fさん「言ってない、オレはあそこの角で跳ねられたんだ」
警察官「…そう、それじゃあね、少なくともあの女性が運転している車はそこを通っていないみたいだよ」
Fさん「そんなこと知るか!とにかくオレは被害者なんだ!」
激怒し続けるFさん、言っていることは支離滅裂、いつ、どこで、どのような車に、どんな風に跳ねられ、どこを怪我したのか、その全部が分からないのです。私たちが身体に触れることも断固拒否、活動は一向に進みませんでした。はぁぁ…どうしたものか…。
警察官「ねえFさん、私たちにも救急隊の人も困っちゃうんだよ、あなたの話は全然分からないよ、自転車にも傷なんてないし…、あなた酔ってひっくり返っただけってことはない?」
Fさん「何だとこの野郎!お前じゃ話にならない、お前誰だ?ふざけるな!お前どこの者だ?」
警察官「私は○警察の者ですよ」
Fさん「バカ野郎…上等だよ…ふざけるなよ…」
ぶつぶつとつぶやいているFさんは携帯電話を取り出して何やら電話を始めました。
Fさん「オレ?Fって者だけどなぁ、話にならないんだよ!担当を替えてくれるか?は?だから担当を替えてくれって言っているんだよ!」
…おいおいおい、これは…どこに電話しているんだ?
Fさん「だからさっき電話してやってきたまではよいけどな、話にならないんだよ!チェンジだチェンジ!担当を替えてくれ!…だからなぁ、え〜とお前何警察だっけ?」
警察官「○警察の○ですよ…」
Fさん「そうだ、○警察の○ってのが来ているんだけど全然ダメなんだ、チェンジだチェンジ!」
警察官「ねえ、Fさん、あんたどこに電話しているの?」
Fさん「110番に決まっているだろう、お前すぐにチェンジだからな」
警察官「はぁぁ…」
大きなため息をついた警察官はパトカーの方に行ってしまいました。救急隊だけにしないで〜

 まだ車内
いっこうに進まない活動、110番に電話しているFさんはまだ何やらしゃべっています。不適切な119番をしないでと当サイトでも訴えていますが、110番への不適切な通報はどうやら119番よりも相当に酷そうです。先ほどの警察官が数名を引き連れて救急車に戻ってきました。
警察官「隊長さん、ちょっとよいですか?」
隊長「ええ」
警察官「どうですか?怪我はしていますか?」
隊長「それがね…あの様子ですからね、私たちの観察もすべて拒否、身体を見せてもらえないのですよ、どうにも判断できませんよ」
警察官「はぁ…そうですよね」
隊長「困りましたね…」
警察官「うちで連れて行きます、よろしいですか?」
隊長「ええ、そちらで保護していただけるなら」
警察官「そうですか、ご迷惑お掛けしましたね」
隊長「いえ、どうも、それではお願いします」
警察官「Fさん!Fさんよ!もう電話はいいだろ?詳しく話を聞くから行こう!」
Fさん「何だ?お前誰だっけ?」
警察官「だから○警察の○ですよ、もう分かったから一緒に行こう、ねえ?」
Fさん「何でだ?オレは被害者だぞ!何で連行されなくちゃいけないんだ!」
警察官「連行じゃないよ、詳しくお話を聞くためだよ」
Fさんは大声を出して騒ぎはしますが暴れることもなく意外と素直にパトカーに乗り込み警察官に連れて行かれました。自宅に連れて帰られたのか?それとも警察署で保護になったのか?この活動「傷病者なし」…だったのでしょうか?警察官の保護で活動は終了しました。

 帰署途上
本部に報告し引揚げる救急車、もうすっかり深夜に突入し日付が替わろうとしていました。
機関員「チャンジだってさ?あの人オレたちを何だと思っているんだろうな?」
隊員「本当、やりたい放題ですね、でも警察官は動じないですね、あの人が119番してチェンジだチェンジだって連呼したらどうしていました?」
隊長「冗談じゃないよ!そんなの本当にたまらない!」
機関員「報告だ何だでオレたち3人、朝までかかりきりになるよな?警察はその点すごいよな?本当に全然動じてない様子だったもんな?」
隊長「あんなの慣れっこなんだよ、不適切な110番通報の内容は119番の比じゃないって話だぞ、相当に酷い通報がかなりあるんだって」
隊員「あの人を家まで連れて行くのか、それとも警察署で朝まで保護するのか、どちらにしても警察官も本当にたいへんな仕事ですよね」
隊長「本当だな、税金泥棒とか言われて、こんなに一生懸命やっているってのにな」
機関員「はぁぁ…とにかくもう疲れた…帰署したら誰か替わってくれないかな…」
隊員「それは無理ですよ、今夜は救急機関員ができる予備隊員はみんな乗っていますから、代わりはいませんよ」
隊長「そうそう、朝までチェンジなしだ」
機関員「はぁぁ…オレもチェンジしたいなぁ…」


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posted by: パラ吉 | 救急救命士たちのため息現場 | 22:43 | comments(8) | trackbacks(0) | はてなブックマークに登録はてなブックマーク - チェンジだチェンジ! | この記事をTwitterでつぶやくこの記事をtwitterでつぶやく
         

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